起業13年のプロが教える「会社設立でよくある落とし穴」7選

「いつかは自分の会社を」その夢、本当に素晴らしいと思います。

はじめまして、中小企業診断士の加藤剛志と申します。
私自身も2社の創業経験があり、現在は起業支援コンサルタントとして13年間で50社以上の会社設立をお手伝いしてきました。

多くの起業家が希望に満ちてスタートラインに立つ姿を見てきましたが、同時に、ほんの少しの知識不足が原因で、思わぬ「落とし穴」にはまってしまうケースも少なくありません。

会社設立は、決してゴールではありません。
むしろ、これから始まる長い航海の出発点です。

この記事では、私が現場で見てきた「会社設立でよくある落とし穴」を7つ厳選してご紹介します。
あなたが失敗しない選択をし、力強く事業をスタートさせるためのガイドとなれば幸いです。

目次

よくある落とし穴①:目的なき法人化

「個人事業主より、株式会社の方が格好いいから」
「なんとなく、法人化した方が信用されそうだから」

もし、あなたがこのような漠然とした理由で法人化を考えているなら、一度立ち止まる必要があります。

なぜ「とりあえず法人化」が危険なのか

法人化は、単に名前が変わるだけではありません。
社会的信用が高まる一方で、税務申告の複雑化や社会保険への加入義務など、個人事業主時代にはなかった責任とコストが発生します。

明確な目的がないまま法人化してしまうと、これらの負担だけが重くのしかかり、「何のために会社にしたんだっけ…」と後悔することになりかねません。

個人事業との違いを理解せずに設立すると起こること

例えば、利益が出ても、それを自由に使えるわけではありません。
社長であるあなたへの給与は「役員報酬」となり、一度決めたら原則1年間は変更できません。

また、赤字であっても支払わなければならない「法人住民税」も発生します。
こうした違いを理解しないまま進むと、資金繰りに窮する原因となります。

明確なビジョンがないと制度に振り回される

大切なのは、「法人化して何を成し遂げたいのか」というビジョンです。

  • 大きな資金調達をして、事業をスケールさせたいのか?
  • 優秀な人材を採用して、組織を大きくしたいのか?
  • 将来的な事業承継やM&Aを見据えているのか?

このビジョンが明確であれば、法人化は強力な武器になります。
しかし、ビジョンがなければ、ただ制度に振り回されるだけの「重荷」になってしまうのです。

よくある落とし穴②:資本金を適当に決めてしまう

「今は資本金1円から会社が作れるらしいから、それでいいや」
これは、最も危険な落とし穴の一つです。

法律上は可能ですが、ビジネスの現場では多くのデメリットが生じます。

「1円起業」は本当におすすめ?

結論から言うと、全くおすすめできません。
私自身、資本金1円で設立された会社が、その後順調に成長したケースをほとんど見たことがありません。

なぜなら、資本金は会社の「体力」であり、「信用」の証だからです。
資本金が1円ということは、設立した瞬間に登記費用などの経費で債務超過(会社の資産より負債が多い状態)に陥ることを意味します。

信用・融資・税務における資本金の影響

  1. 対外的な信用:取引先があなたの会社の登記簿を見たとき、資本金が1円だったらどう思うでしょうか。「この会社、大丈夫かな?」と不安に思われ、取引を断られる可能性があります。
  2. 金融機関からの融資:融資審査では、自己資金をどれだけ準備したか、つまり事業への本気度が見られます。資本金が少ないと、融資を受けるのは非常に困難になります。
  3. 税務上のメリット:資本金を1,000万円未満に設定すると、設立から最大2年間、消費税の納税が免除されるという大きなメリットがあります。

実態に即した資本金の考え方

では、資本金はいくらにすれば良いのでしょうか。

一つの目安は、「事業が軌道に乗るまでの3ヶ月〜半年分の運転資金」です。
事務所の家賃、人件費、仕入れ代金、広告費など、売上がなくても出ていくお金を計算し、それを資本金として準備するのが現実的です。

しっかりとした資本金は、あなたの事業を守る「盾」になるのです。

よくある落とし穴③:登記や手続きを甘く見る

会社設立には、定款の作成・認証、登記申請など、多くの法的手続きが必要です。
「自分でやれば安く済む」と安易に考え、手続きを甘く見ると、かえって時間とコストを浪費する結果になりかねません。

法人設立のステップを正しく把握していますか?

株式会社の設立は、大まかに以下のステップで進みます。

  1. 会社の基本事項の決定(商号、本店所在地、事業目的、資本金など)
  2. 定款の作成
  3. 公証役場での定款認証
  4. 資本金の払込み
  5. 法務局への登記申請

一つひとつのステップで、決められたルールに沿った書類を作成・提出する必要があります。

書類の不備・遅れによる意外なトラブル

もし書類に不備があれば、法務局で何度も修正を求められ、設立日がどんどん後ろ倒しになってしまいます。

その結果、予定していたオフィス契約ができなかったり、取引先との契約のタイミングを逃したりと、ビジネスチャンスを失うことにも繋がります。

プロに任せるべきか、自分でやるべきかの判断軸

もちろん、ご自身で手続きをすることも可能です。
しかし、私は「専門家に任せる」ことを強くお勧めします。

司法書士などの専門家に依頼すれば、数万円の費用はかかりますが、あなたは面倒な手続きから解放され、事業の準備という最も重要な仕事に集中できます。

特に、専門家が作成する「電子定款」を利用すれば、紙の定款で必要になる4万円の収入印紙が不要になるため、実質的な負担額はかなり抑えられます。
これは「時間を買う」という、経営者にとって非常に重要な投資なのです。

よくある落とし穴④:税務と会計の準備が不十分

法人化すると、お金の管理、つまり「会計」と「税務」の世界がガラリと変わります。
この準備を怠ると、後で大変な苦労をすることになります。

法人になると税務の世界が変わる

個人事業主の確定申告とは異なり、法人の決算申告は非常に複雑です。
会計帳簿の作成も、法律で定められた厳格なルール(複式簿記)に従う必要があります。

「市販の会計ソフトを使えば大丈夫」と思っている方もいますが、初期設定や日々の仕訳でつまずくケースが後を絶ちません。

会計ソフトだけでは足りない?経理の基本知識

経理の知識が全くないまま進めてしまうと、気づいた時には帳簿がぐちゃぐちゃに…
決算期が近づいてから慌てて税理士に泣きついても、通常より高い料金を請求されたり、最悪の場合、断られたりすることもあります。

税理士との連携は「いつ・どう始めるか」

税理士との契約は、コストがかかるため躊躇する方も多いでしょう。
しかし、税理士は単に申告を代行するだけではありません。

節税対策のアドバイスや、資金繰りの相談、経営分析など、あなたの事業を成長させるための心強いパートナーになってくれます。

理想は、会社設立の準備段階から相談できる税理士を見つけることです。
設立後の手続き(税務署への法人設立届出書の提出など)もスムーズに進みますし、融資を考えているなら、事業計画の策定からサポートしてもらうことも可能です。

よくある落とし穴⑤:社会保険・労務対応の見落とし

「社長一人の会社だから、社会保険は関係ないよね?」
これも、非常によくある勘違いです。

「一人社長」でも社会保険は必要?

結論として、たとえ社長一人だけの会社であっても、役員報酬を受け取る限り、健康保険と厚生年金保険への加入が法律で義務付けられています。

国民健康保険や国民年金に比べて保険料の負担は増えますが、将来受け取れる年金額が増えたり、病気やケガで働けなくなった際の保障(傷病手当金)が手厚くなったりと、メリットも大きいのです。

未加入のまま放置していると、年金事務所から指導が入り、過去に遡って保険料を請求されるペナルティもありますので、必ず手続きを行いましょう。

人を雇う前に整えるべき労務環境

将来的に従業員を雇うことを考えているなら、さらに準備が必要です。
従業員を一人でも雇用すれば、労働保険(労災保険・雇用保険)への加入が必須となります。

また、労働時間や賃金、休日などのルールを定めた「就業規則」の作成も、常時10人以上の従業員を使用する場合には義務となります。

トラブルを未然に防ぎ、従業員が安心して働ける環境を整えることは、経営者の大切な責務です。

よくある落とし穴⑥:口座開設と資金繰りの壁

会社を設立し、さあ事業を始めよう!と思っても、最後の壁が立ちはだかることがあります。
それが「法人口座の開設」と「資金繰り」です。

法人口座が開けない!? 銀行の審査の現実

意外に思われるかもしれませんが、近年、法人口座の開設審査は非常に厳しくなっています。
これは、マネーロンダリングなどの犯罪に利用されるのを防ぐためです。

  • 資本金が極端に少ない
  • 事業内容が不明瞭
  • 固定電話がなく、携帯電話だけ
  • 会社のウェブサイトがない

上記のようなケースでは、審査に落ちてしまう可能性が高まります。
事業の実態をきちんと説明できるよう、事業計画書や会社のウェブサイトなどを事前に準備しておくことが重要です。

設立初期に資金ショートしやすい理由

私の経験上、起業して最初の1年でつまずく最大の原因は「資金ショート」です。

売上がすぐに入金されるとは限りません。
一方で、家賃や人件費、仕入れ代金などの支払いは容赦なくやってきます。
この入金と出金のズレが、資金繰りを圧迫するのです。

運転資金の考え方と初期コストの見積もり

会社設立にかかる費用(登記費用など)だけでなく、設立後に必要となる運転資金を甘く見積もってはいけません。

「これくらいあれば大丈夫だろう」というどんぶり勘定ではなく、最低でも半年分、できれば1年分の運転資金を確保した上でスタートを切ることが、精神的な安定にも繋がります。

よくある落とし穴⑦:誰にも相談せずに進めてしまう

ここまで様々な落とし穴について解説してきましたが、最大の落とし穴は、これら全てを「一人で抱え込んでしまう」ことかもしれません。

私自身、30歳で初めて起業した際は、誰にも頼れず、多くの遠回りをしました。
初年度は赤字からのスタートで、本当に苦しい時期を過ごした経験があります。

一人で悩むより「専門家に聞く」が早道

起業は孤独な戦いになりがちです。
しかし、あなたの周りには、サポートしてくれる存在がたくさんいます。

登記は司法書士、税務は税理士、労務は社会保険労務士。
それぞれの専門家は、あなたが何日も悩むような問題を、数時間で解決してくれる知識と経験を持っています。

無料で使える公的サポート窓口

「専門家に相談するのは、費用が心配…」という方もご安心ください。
以下のような、無料で利用できる公的な相談窓口があります。

  • 商工会議所・商工会:地域に根差した経営相談が可能です。
  • よろず支援拠点:国が設置した経営相談所で、様々な分野の専門家が待機しています。
  • 日本政策金融公庫:創業融資を考えているなら、まず相談すべき機関です。

こうした窓口を積極的に活用し、情報収集することから始めてみましょう。

また、こうした公的機関と並行して、あなたの事業所に近い地域の専門家を探すことも、スムーズな起業の鍵となります。
例えば、会社設立 神戸を考えているなら、地域の商慣習や金融機関の動向に詳しい行政書士や会計事務所に相談することで、より具体的なアドバイスが期待できるでしょう。

自分に合った支援者を見つけるコツ

良い支援者と出会えるかどうかは、あなたの事業の成功を大きく左右します。

単に知識があるだけでなく、あなたのビジョンに共感し、親身になって話を聞いてくれるか。
相性も非常に重要です。
いくつかの無料相談などを利用して、あなたが「この人になら任せられる」と心から思えるパートナーを見つけてください。

まとめ

会社設立という大きな一歩を踏み出すあなたに、これだけは覚えておいてほしいことがあります。
それは、「会社の成否は、準備の質で決まる」ということです。

今回ご紹介した7つの落とし穴を、最後にもう一度確認しましょう。

  1. 目的なき法人化:なぜ会社にするのか、ビジョンを明確にする。
  2. 資本金を適当に決める:「1円起業」はNG。最低3ヶ月分の運転資金を用意する。
  3. 登記や手続きを甘く見る:専門家の力を借りて、本業に集中する時間を作る。
  4. 税務と会計の準備不足:設立準備段階から、信頼できる税理士を探す。
  5. 社会保険・労務の見落とし:一人社長でも社会保険は必須。ルールを正しく理解する。
  6. 口座開設と資金繰りの壁:事業の実態を証明する準備と、余裕を持った資金計画を。
  7. 誰にも相談しない:一人で抱え込まず、公的機関や専門家を積極的に活用する。

これらの落とし穴を事前に知り、一つひとつ対策を講じておけば、何も恐れることはありません。
あなたは、立派な経営者としての第一歩を踏み出すことができます。

あなたの挑戦が、単なる「設立」で終わらず、「継続」そして「成長」へと繋がっていくことを、心から応援しています。
さあ、今日から未来の自分のために、一歩を踏み出しましょう。